星降る夜の奇跡 – 第3話

しばらく熱心に星を眺めたあと、二人は展望台の少し奥まった場所に腰を下ろし、小さなランタンの灯りの下で一息つく。風が冷たいので、サヤが持ってきたお茶を紙コップに注ぎ、湯気を手で温めながら飲む。寒さのせいか、まるで手足の感覚が鈍くなるようだが、それでも夜空があまりに美しいので、あまり気にならない。

「サヤ、寒くない? ちゃんと厚着してきた?」

「まあまあね。星を見るのに夢中で、寒いって感覚もどっか行っちゃいそう」

そう言って笑うサヤだったが、実際に夜の山道での冷え込みは予想以上だ。ユウタも肩にかけていたブランケットをサヤにそっと差し出す。

「ありがとう。……ねえ、こんなにきれいな星を毎日のように見てるユウタは、やっぱり幸せなんだろうね」

サヤは何気なく口にしたが、その一方で、自分はなぜここまで都会で追い詰められたのだろう、と心のどこかで思い出していた。ランタンの揺れる炎を見つめながら、サヤは意を決して切り出す。

「実はわたし、都会の生活に疲れちゃってね。仕事も、すごくきつくて……周りの人間関係にも振り回されて、もう何が自分のやりたいことか分からなくなってた。だから思い切って会社を辞めて、ここに来たんだ。こんなふうに星を見上げる時間さえなかったから、今はちょっとだけでも楽になった気がする」

サヤが自分の経緯を正直に打ち明けるのは初めてだった。都会を離れた理由をちゃんと説明したのは、ユウタの前が初めてかもしれない。隠さなければいけないと考えていたわけではないが、過去を話すのは少し怖かったのだ。それでも、ユウタにはなんとなく話してもいい気がした。彼は黙って頷きながら、サヤの言葉をそっと受け止める。

「……そうだったんだ。でも、ここに来て、星を見て、少しでも楽になれたんなら、俺は嬉しいよ。俺もさ、実は一度この村を出たいと思ったことがあったんだ。高校を卒業して、都会に行って天文学をちゃんと学びたいって思ってた。でも、いろいろ事情があって、それが難しくなって……結局、ここに残ることにした」

ユウタは夜空を見上げる。遠くの星が瞬くたび、その揺らめきがどこかせつない感情を呼び起こすようにも見える。サヤは言葉を挟まず、彼が話しやすいように黙って耳を傾けた。ランタンの明かりに照らされたユウタの横顔は、いつもより大人びて見える。

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