星降る夜の奇跡 – 第3話

何も言葉を交わさなくても、穏やかな静寂が二人の間を包み込む。夜空はまるで、その静寂を祝福するかのようにきらきらと輝いている。サヤとユウタの心の中には、まだ整理しきれない思いがそれぞれに渦巻いている。しかし、星の下で胸の内を少しだけさらけ出した今、この特別な空間が二人の距離をぐっと縮めたことだけははっきりと感じられる。

サヤはランタンの炎を眺めながら、今まで自分が逃げるように都会を離れたこと、ここで出会った星やユウタとの時間が、もしかしたらこれまで想像していなかった新しい扉を開いてくれるかもしれないと思い始める。一方、ユウタもまだ言葉にはしないものの、サヤの存在が自分の心に小さな灯りをともしてくれているのを自覚していた。けれど同時に、叶えられなかった夢が、彼の中でくすぶり続けているのもまた事実だ。暗闇に美しく光る星々を眺めながら、胸の奥の痛みと憧れを思い出しては、遠い記憶をなぞるように見上げるその瞳には、一抹の切なさが宿っているようでもある。

夜風が一段と冷たくなってきたころ、二人はそろそろ下山の準備をすることにした。天体望遠鏡を丁寧に片付け、ゴミがないか周囲を確認する。帰り道は下り坂とはいえ、やはり暗く足元は慎重に進まなければならない。最初の一歩を踏み出す前、サヤは最後にもう一度だけ夜空を見上げ、「またここに来たい」と強く思った。彼女は自分でも気づかないうちに、星の世界だけでなく、ユウタという存在にも少し惹かれ始めていることを感じていた。ユウタもまた、もしかしたら星だけでなく、星に興味を示してくれるサヤの存在にほのかな救いを見出しているのかもしれない。

こうして二人は言葉少なに、しかし温かな空気をまといながら山道を下る。ランタンと懐中電灯が照らす足元はかすかに明るく、行く手を示す。遠くの空にはまだ星が瞬いている。叶わなかった夢、都会での疲弊、そのすべてを抱えたままでいいのだろうか。サヤとユウタは、それぞれの思いを抱えながら、今日の星空観察を胸に刻むように、ゆっくりと一歩ずつ歩みを進めていった。

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