星降る夜の奇跡 – 第5話

懐中電灯に照らされた足元を慎重に進み、ようやく展望台にたどり着いたときには、漆黒の天幕のような夜空が広がっていた。瞬きする星の数は、これまで見たどの夜空よりも多い気がする。ユウタとサヤは言葉も出ないまま立ち尽くし、ただその光景を見つめるしかなかった。ごう、と遠くで風が山肌を駆け抜ける音がする以外は、どこまでも静寂だ。再点検を済ませた望遠鏡をさっそく設置しながら、ユウタは空の状態を確かめる。

「……すごいな、星がこうも鮮明に見えるなんて。これなら、流星群が来るころにはたくさん流れ星が見えるはずだよ」

サヤはそれを聞きながら、手袋をした指先で空を指す。「ほら、あっちにも、すでにスーッと流れた気がする」と伝えると、ユウタは目を輝かせて視線を追いかける。瞬間的に尾を引いて落ちていく光の筋は、はかなくも力強い。あまりにも一瞬の出来事だが、見ているこちらの心に深い余韻を残す。

やがて、夜空いっぱいに流星が次々と現れ始めた。幾筋もの光が闇を裂くように流れ落ち、そのたびにサヤとユウタは「見えた!」と興奮気味に声を上げる。まるで星の雨が降りそそいでいるかのようだ。その神秘的な景観に、二人は言葉を交わさなくても同じ感動を共有しているのを感じていた。一度にこんなに多くの流れ星を見たのはサヤにとって初めてであり、ユウタにとっても格別な夜なのは間違いない。

流れ星の煌めきに包まれた展望台で、ユウタは望遠鏡の傍らからふと視線を上げてつぶやいた。「……俺、やっぱり本格的に天文の勉強がしたいと思うんだ。星を見るだけじゃなくて、星のことをもっと深く知りたい。昔、諦めてしまった夢だったけど、やっぱり捨てきれない。今度こそ、自分のやりたいことに挑戦したい」

その言葉を聞いたサヤは一瞬胸がいっぱいになった。ユウタが星に強く惹かれる理由も、それを諦めざるを得なかった過去も、少しずつだけれど知っているつもりだった。だからこそ、今あらためてそう口にしたユウタの瞳には、星と同じくらいにきらきらした希望が宿っているように思える。

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