夜。工事現場に簡易テーブルを出し、メニュー試食会が始まる。
1皿目は真鯛の低温コンフィ、柚子味噌クリーム。
スーッとナイフが入ると、鯛の身から透明な脂がしみ出し、味噌と柚子の香りが湯気とともに立ちのぼる。
マミが一口含み、肩を震わせた。
「鯛が…溶けたあとに味噌のコク! なのに重くない!」
佐伯も頷き、「山のニンジンと海の魚が握手しとるわ」と笑う。
タケルとリナは目を合わせ、小さくグータッチを交わした。共鳴する香りは町の人々の心に染み込み、拍手が夜空へ弾けた。
その拍手のリズムは、遠い都会までも届くように、春の風に乗って広がっていった。



















