三月末。酒蔵跡の改装工事が始まり、梁を磨く木槌の音に混じってリナの笑い声が響く。
「こっちはオープンキッチン、こっちは子ども用カウンターね!」
マミはパティスリー区画の壁色を考え、伊藤は収支計画をタブレットで確認。それぞれの専門がパズルのピースのようにハマっていく。
タケルは外で煙突跡の煉瓦を外し、軒下にハーブを植える土を作っていた。額の汗を拭うと、風に乗って白雪ニンジンの苗床から青い香りが届く。
「やっと同じ火の前に戻れたね」
リナが土の匂いを吸い込みながら言う。
「ああ。今度は皿も心も、二度と割らない」
タケルは笑い、手袋を外すとリナの指を握った。淡い日差しが二人の影を重ね、ほんのり柚子のような匂いがした。



















