ニューロネットの夜明け – 第3章:意識を繋ぐネットワーク|前編

「しかし、これ以上被験者が錯乱するような事態が続けば、世間が黙っていません。情報が漏れれば問題になる」

「大丈夫。政府の後ろ盾がある限り、表沙汰になることはないわ。必要とあれば、私たちがコントロールできる。ここは“人類の未来”を築くための実験なの」

彼女の目には強い光が宿っていた。被験者たちが経験する苦痛も、計画の進行に必要な“犠牲”なのだと自分に言い聞かせているかのように見える。意識統合が成功すれば、世界から争いが消える——ビアンカはその確信を抱いていた。それがどんなに無謀な賭けであっても、彼女は退くつもりなどなかった。

実験の合間、ビアンカは一人、研究所の廊下に出る。薄暗い照明が照らす中、静寂に包まれたスペースがいくつもあり、遠くで機械の動作音がかすかに聞こえるだけだ。彼女は手すりにもたれ、遠い昔の記憶に沈むように目を閉じた。

幼い頃、ビアンカが目の当たりにしたのは、紛争地帯の惨状だった。瓦礫の山と化した街、銃声や爆撃で怯える人々、そして何より、言葉が通じず互いを理解できないがために、無益な憎しみを増幅させる大人たちの姿。あの光景を目に焼き付けてから、ビアンカはずっと考えてきた。もし人々が同じ思考や感覚を共有できれば、誤解や疑念が生まれず、争いは起きないのではないか。

「人間同士が完全に理解し合えたら、戦争なんてなくなるはず……」

幼いビアンカの心には、その理想が深く根を下ろした。成長した彼女は科学の道を選び、ニューロチップ研究と政府の軍事・医療との接点を探るうちに、この“意識統合”という計画を見出したのだ。もちろん強制的に意識を繋ぐ行為に倫理的な問題がないわけではない。それでもビアンカは、なお「これは人類の進化のために必要だ」と信じている。

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