ニューロネットの夜明け – 第3章:意識を繋ぐネットワーク|前編

「次は2番と4番、それから新しく加わった7番の被験者を同時にリンクさせます。負荷を分散することで、より高度な意識共有を目指すわ」

「ですが、同時リンクはまだ試験段階では……」

反論しかけた研究員を、ビアンカはきっぱりと遮る。

「心配はいらない。もし問題が起きても、それも貴重なデータになるわ。最初から完璧を求めても進歩はない。私たちは一刻も早く結果を出す必要があるの」

そうして再び作動し始めた装置は、被験者たちの脳波を幾重にも重ね合わせ、どこか神秘的なパターンを描き出す。まるで人間の深層心理が一つに溶け合うかのような様相に、実験室内の研究員は静まり返って見守るしかない。目を閉じた被験者の表情には不安と陶酔の入り混じった微かな変化が浮かんでいた。

ビアンカはその様子をモニター越しに見つめ、心の底で“人類が一つに繋がる”イメージを思い描いている。世界のどこかで起きている紛争も、偏見も、差別も、すべては互いを理解できないが故の悲劇だ。だからこそ、完全に思考を共有し、境界を取り払えば争いは根絶できる——これこそがビアンカの揺るぎない信念だった。

だが、その過程で人が失うものは何か。意識の統合とは、本当に尊厳や自由を保証してくれる行為なのか。それとも、その代償として人間性を放棄することを意味するのか。ビアンカはそうした疑問を自身にも向けながら、それでもなお前に進もうとしている。この理想を実現しなければ、世界は今のまま、互いを傷つけ合うばかりだという確信があるからだ。

実験の合間、モニターに表示される脳波パターンが一つに近づいていくのを確認しながら、ビアンカは微かに唇をほころばせる。彼女の耳に、実験機器の駆動音や被験者の息遣いが連なり、その音が遠く昔に聞いた砲火や悲鳴をかき消すかのように思えた。意識が完全に溶け合う未来が見えてくれば、きっと人類は次のステージへと昇る——ビアンカの心はその理想への希求で満たされている。

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