ニューロネットの夜明け – 第3章:意識を繋ぐネットワーク|前編

一方で、何人かの研究員たちの顔には戸惑いや恐れの表情が滲んでいる。この方法は本当に正しいのか? 拒否権を持たない被験者は、この先どんな苦痛を強いられるのか? そうした内なる疑問を押し殺すしかない場所が、ここ、政府系研究所の地下実験室だった。ビアンカの信念と、そこに潜む矛盾はやがて大きな歪みを生むかもしれないが、今はまだ誰もそれを止める力を持たない。

「負荷パラメータを調整して。被験者の脳波が振動し始めている。早めに数値を下げないと——」

ある研究員の声が上がり、ビアンカが即座に反応する。

「いいえ、もう少し上げるわ。あと5%だけ。ギリギリまで引き上げてデータを取りましょう」

装置の警告音が甲高く鳴る中、被験者たちの呼吸は荒く、まるで集団で同じ悪夢を共有しているかのようにも見える。ビアンカはその光景を前に、一瞬だけ幼少期の光景を思い出す。瓦礫に潰された人々、絶望に落ちる大人たち——しかし彼女はすぐに意識を切り替えた。今ここで見ているのは、恐怖ではなく希望だと自分に言い聞かせるために。

そしてビアンカは、実験室中を見回しながら短く呼吸を整えた。この先には確かに困難が待ち受けているだろう。失敗し、副作用に苦しむ被験者が出てくる可能性も高い。それでも彼女は止まらない。戦争のない世界、誤解や憎しみが消え去った平和な世界を実現するために——ビアンカの歩みは加速していく。

やがて、次のテストが終了を迎えようとしている。警報音が少しずつ静まり、被験者たちの脳波グラフが落ち着きを取り戻すころ、研究室内には重苦しい沈黙が戻ってきた。ビアンカはモニターに映る数値を確認しながら、さらなる拡張実験に向けて心を燃やす。この道の先で、人類は本当に幸福になれるのか——その答えを確かめるために。

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