ニューロネットの夜明け – 第3章:意識を繋ぐネットワーク|後編

ミアは端末のキーボードを叩き、データをさらに詳細に解析しようとする。しかしそこには重複した符号や欠損したファイルが多く含まれており、完全な全容を掴むには至らない。ただ、一部に記録されている被験者の症状や実験結果は衝撃的だった。

「脳波を同期させて……感覚や記憶を共有させる実験? しかも、被験者の一部が深刻な混乱を起こしているみたい。激しい錯乱状態、失神、場合によっては凶暴化……」

ミアの声が細かく震える。画面の隅には実験回数らしき数字や、被験者の代わりようを示すレポートが挟まれている。一方で、成功例もあるらしく、一部の被験者は“他人の思考をまるで自分のもののように受け取る快感”を語っていた。

「単なるセキュリティ開発という建前にしては明らかにおかしい。誰がこんな実験を? それにこの施設、どう考えても個人の企業だけじゃないわ。政府系の研究所か、軍事関連の機関が絡んでるとしか思えない」

エリカはデータのフッタにある連続番号や、送信元を示すらしきコードを示しながら断定的な口調で言う。その番号の一部は、政府研究所で使われるフォーマットに近いことを示唆していた。

ミアは画面から目を離し、エリカの表情を伺う。アジトの蛍光灯の下、エリカはまるで苦しむかのように眉間に皺を寄せ、握りしめた拳を机の上に置いている。

「エリカ……これ以上関わるのは危険よ。ヴァル・セキュリティだけでも大事なのに、もし政府が背後にいるなら下手な動きは命取りになる」

エリカは一瞬だけ視線を伏せて唇を噛む。ミアの言うことは理にかなっている。政府や大企業が手を組んでいるとすれば、普通のハッカーなど到底太刀打ちできない力を持っているだろう。

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