ニューロネットの夜明け – 第3章:意識を繋ぐネットワーク|後編

コンクリートむき出しの壁を見つめながら、エリカは歯を食いしばる。まるで闇に押し包まれるような圧迫感を感じながら、必死に理性を保とうとする様子が痛々しい。ミアはその姿を見て、再びため息をついた。

「エリカ……あなたがそこまで言うなら、もう止めても無駄なんだろうね。でも、本当に気をつけて。今回のデータを見つけたこと自体、相手にバレたら大変なことになる。私たちの痕跡を完全に消しておかないと」

エリカは大きく深呼吸をしてから、モニターに向き直る。端末画面に映る被験者の脳波グラフは、どれも異様な振動パターンを示していた。ある被験者が激しい苦痛を訴えたらしく、その詳細レポートには「他者の記憶が流れ込み、自我を保てなくなる瞬間がある」と書かれている。まさしくエリカの体験した悪夢だ。

「もしこの研究がさらに進めば、人間同士を強制的に繋ぐことも現実味を帯びる。それこそ、世界規模でやられたら取り返しがつかない。個人の自由なんて、一瞬で崩壊するわ」

「このデータ、誰かに預けるの? リークするの? それとも直接研究所をどうにかするの?」

ミアが畳みかけるように質問するが、エリカははっきりと答えない。まだ具体的な行動プランを固めきれてはいない。それでも“やるべきことはやる”という意志だけは揺らいでいない。

「いずれにせよ、時間はそう多くないわね。ヴァル・セキュリティのセキュリティレベルが上がってるし、政府研究所が絡んでるなら尚更。追われる側になれば動きづらくなる」

ミアがシステム解析の画面を閉じ、いくつかのファイルを暗号化してバックアップを取る。もしもの場合に備えて、証拠を分散保存しておく作業だった。

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