ニューロネットの夜明け – 第3章:意識を繋ぐネットワーク|後編

どこかで風が吹き、倉庫内の隙間を通ってかすかな音が響く。エリカはその音に耳を澄ませながら、幼少期の自分を思い出す。あの頃はチップの誤作動で意識が曖昧になり、数日間まともに会話さえできなかった。それを機に、チップ技術の闇と対峙する人生が始まったのかもしれない。

「被験者たちを救えるかはわからない。だけど、誰かが声を上げないと、もっと大勢の人が巻き込まれるわ」

エリカは静かにそう言うと、モニターに映る精神錯乱の映像を閉じ、端末の電源を一旦落とした。目を閉じても頭の奥には、悲痛な被験者の記録が焼き付いている。その映像が自分の幼い頃と重なるほどに、彼女の決意は固まっていた。

がらんとした倉庫の中で、ミアが最後に口を開く。

「とりあえず、このデータは分散して保存しておこう。アクセスルートも一度リセットする。何があっても証拠が消えないように。あと、ここの場所も危なくなったら引き払えるように準備するから」

エリカは小さく頷き、机に並んだ機材を整え始める。薄暗い照明に浮かび上がる二人の姿は、どこか切迫した雰囲気に包まれていた。

そして、倉庫の外では朝に近い灰色の空が広がり始めている。いつもと変わらぬ日常へ向けて町は動き出そうとしているが、エリカにはもう後戻りできないことがはっきりわかっていた。被験者たちが見たであろう地獄の断片、それを止められるのは、彼女しかいないのかもしれない。そんな焦りと使命感が交差するなか、エリカとミアは互いに視線を交わし、わずかに頷く。彼女たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。

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