「でも、放っておけないわ」
語気を強めたエリカの声には、焦燥と決意が入り混じっている。
「実験記録を見た? 被験者が精神錯乱を起こしてる。これは脳内チップへの無理な干渉でしょ。もしこの技術が完成して、無差別に人々の意識を共有化するようなことになったら……考えただけでも恐ろしい。どんな惨劇になるか想像がつかないわ」
彼女はそう言ってから、力なく息を吐く。幼少期の記憶がまた頭をもたげていた。チップが誤作動したせいで、突然他人の感情や思考が流れ込み、自分の意識がどこにあるのかわからなくなったあの恐怖を、エリカは身体で知っている。
「分かるよ、その気持ちは。私もニューロチップの技術が危うい面を持っていることは理解してる。でもね、相手が政府の研究所だとしたら、そんな簡単に暴ける話じゃない」
ミアは静かにエリカの肩に手を置く。ところがエリカは微かに震えながら、彼女の手を取り、ぎゅっと握り返した。
「……私、子どもの頃に体験したの。制御不能のチップで、他人の思考が波のように押し寄せてくる感覚を。自分の人格さえ溶けてしまうんじゃないかって……本当に怖かった」
エリカの声が微かに震える。ミアは何も言わずに耳を傾ける。
「今、被験者たちが錯乱してるのを見て、あの時の感覚がフラッシュバックしてきた。もしあの苦しみを大勢の人が味わうことになったら……しかも強制的に意識を繋げられるなんて……そんなの地獄よ」


















