ニューロネットの夜明け – 最終章:夜明け|後編

エリカは微笑みを返しながらも、どこか遠くを見るように視線を泳がせる。

「ううん、まだ恐怖は消えてはいないの。だけど、恐怖を知っているからこそ、それをどう制御するか考えられるはず。人間はきっと、テクノロジーに飲み込まれない方法を学ぶことができると思う」

窓の外では、通りを走る人や車が日常の喧騒を響かせている。ほとんどの人は、脳内チップを使ってオンライン世界と繋がったまま生活している。エリカ自身、全面的にチップを否定しているわけではない――実際、ハッカーとしての活動にはそれが不可欠だったし、何よりこの技術がなければ救えない命や仕事もある。問題なのは、その使い方と制御の仕組みだ。

「やっぱり便利な道具を手放すのは難しいよね。私だって、研究や設計にはチップが欠かせない。医療や通信も高度化してるし、全否定するんじゃなくて、どう共存するかを考えなきゃ」

ミアが言葉を継ぎ、エリカも深くうなずく。プロジェクト・シナプスを止めたところで、世界からニューロチップが消えるわけではない。むしろ、これからはその管理や運用の在り方を社会全体で問う必要があるだろう。

「あなた、これからどうするつもり? またジャーナリスト的に動いて権力を監視するの? それとも別の仕事を始めるの?」

ミアの問いに、エリカは少し悩んだ表情を見せる。

「まだはっきりとは決めてない。ハッカーとしてのスキルを使って世の中に貢献する道もあるし、あえて一般市民として暮らして、問題があればまた動き出すのもありかなって。とにかく、今は少し休みたい気分かも」

言ってから、エリカは窓に視線をやる。朝日が完全に昇りきり、清々しい青空が広がっていた。昨夜までの暗闇の戦いが嘘のように、太陽の光が部屋の奥まで射し込んでいる。

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