星の涙 – 第7話

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石造りの大扉を押し開けると、冷たい夕暮れの光がステンドグラス越しに差し込み、教会内部に柔らかな彩りを描いた。桜は重い息を整え、陽斗と並んでゆっくりと中央通路を進んだ。ろうそくの灯火が両脇を淡く照らし、古びた大理石の床が足音を反射する。胸に抱えたスケッチブックの重みが、緊張と期待をいよいよ現実に引き戻す。

奥のベンチに腰掛ける女性が、背筋を伸ばして祭壇へ向けられた視線の先をじっと眺めている。白いショールが星の光を帯びたように、ゆるやかに揺れていた。桜は言葉を詰まらせながら足を止め、「お母さん……?」と小声でつぶやいた。

その呼びかけに、女性はゆっくりと振り返る。深い茶色の瞳に浮かぶ驚きと、やがて溢れ出す涙。桜の胸は一瞬にして熱い鼓動に満たされ、身体を揺さぶるような感情に包まれた。二人の距離はわずか数歩だったが、まるで何年もの時が隔てていたかのように感じられた。

「桜……あなた、本当に来てくれたのね」

声は震え、硝子のように澄んでいた。桜は言葉が出ず、ただ両手でショールの裾を掴みしめる。陽斗がそっと背後から軽く肩を押し、「大丈夫だよ」と囁く。

千鶴は立ち上がり、ぎこちなくも確かな歩みで桜へ近づいた。桜もまた、母へと一歩踏み出す。「ごめんね……離れてばかりで」