序章：前編｜後編
嵐の前触れ
探査艇が深海の謎を目の当たりにしてから、次なる朝が訪れた。桟橋に降り立つと、重々しい空気が漂い、空は濃い灰色に染まり、不吉な嵐の予兆を見せ始めていた。冷たく湿った風が、港の倉庫や船体に不規則な音を鳴らしながら吹き抜ける中、斎藤はブリッジへと向かう足取りを一層早めた。彼の内心には、昨夜の映像から漂う異様な不気味さに加え、迫り来る自然の猛威に対する漠然とした不安が積もっていた。
船内の各所では、昨晩の異常な映像と警報からわずかな混乱が生じ、何かがこの瞬間を境に大きく変わるのではないかという予感が漂っていた。中村はロッカールームに集まり、装備の最終点検を念入りに行いながら、かすかな眉のひそめを隠せなかった。「こんな日は、特に安全確認を怠ってはいけませんわ。昨夜のこともありますし……」と、彼女は声を潜めながらも、仲間たちの注意を促す。
ブリッジに戻ると、斎藤はすぐにコンソールの前に着座し、各種のセンサーから得られる情報を丹念に確認していた。海面の状態、風速、波高、そして遠くで観測される雷光の断続的な発生状況。彼は眉をひそめながらも、あくまで冷静な科学者の顔を崩さなかった。
そのとき、ローレンスが急ぎ足で部屋に入ってきた。彼の瞳には、昨夜の探査映像に続く何かしらの興奮と、嵐に対する独自の畏怖が混じっていた。「斎藤さん、見ましたか？ 今朝の海面は、すでに異常な動きを見せています。昨夜のものが何か大いなる変化を呼び起こしているように思えるのです。」
斎藤はキーボードをたたきながら、静かに答えた。「ええ、各センサーは確かに通常とは異なる数値を記録しています。特に水温の急激な低下と、波の形状が規則性を欠いている点は注目に値します。もしかすると、海底からの未知の力が、この気象状況に何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。」
