大空の船 – 第5章 前編

こうしてアレンたちは男を助けつつ、その“伝説の空域”の方向をおおまかに定めることにした。もちろん、噂が確かである保証などどこにもない。だが、自分たちの冒険を拓く道はそれくらいしか見つからないのも事実だった。

「じゃあ、東の風を読んで高高度に突入しよう。どうせこのまま真っ直ぐ行っても燃料が足りなくなるか、どこかの島を探すしかないわけだし、思いきって賭けてみたい」

アレンの判断に、クルー全員がそれぞれのやり方で覚悟を決める。ライナスは航路上に危険な気流や浮遊岩の群れがないかを丹念に確認し、リタはエンジンと気球部分の最終点検を行う。ラウルは操縦の癖を抑え、安定飛行を最優先にする方向で計画を立てる。助けた男は「都市に行けるかどうかはわからないが、自分はかまわない。少しでも陸に近づけるなら感謝します」と、恐る恐る甲板の隅に身を置く。

数時間後、アルバトロスはうっすらとした朝焼けを背に受けながら、雲海を突き抜けるために上昇を始めた。高空の空気は鋭く冷たく、船体を覆う布の端が霧氷で白く染まりかけている。気圧は下がり、クルーの呼吸は浅くなる。持ち込んだ酸素袋の使い方をリタが甲板で周知し、万が一の体調不良に備える。

「見ろ、あの雲の先が少し明るいぞ」

ライナスが指し示す先には、濃厚な雲の上にごく淡い光の筋が伸びていた。まるで天高くから何かが照らしているようにも見える。その光を目指すように、ラウルは操舵輪をゆっくりと回して高度を維持しながら前進。エンジン音が低く唸り、船体の振動が甲板に伝わる。

タイトルとURLをコピーしました