大空の船 – 第5章 前編

やがて雲海の縁に到達すると、そこには混沌とした風の渦が渦巻いていた。巨大な上昇気流が目に見えない壁となって行く手を阻む。リタが計器を確認して息を呑む。

「この風、相当強いよ。船体が耐えられるギリギリのレベルかもしれない。どうする、アレン?」

アレンは操縦席に駆け寄り、ラウルと視線を交わす。ラウルはハンドルを握り込みながら、「いくなら今だ。風の流れは安定しないが、うまく斜めに進めば突破できるかもしれない」と挑むように言う。

「みんな、しっかりつかまって! 乱気流に入るぞ!」

アレンが大声で指示を飛ばし、リタはエンジン出力を少し上げる。甲板ではライナスがロープを確認し、助けた男にも安全帯を渡して「落ちないように!」と声をかける。激しい風に船体が揺らされ、軋む音がいやに大きく響くが、アルバトロスは必死に前へ進む。

気流を突っ切る一瞬、視界が完全に白く染まってまるで船ごと呑まれてしまったかのような錯覚が起きる。ラウルが腕力を込めて舵を抑え、リタは蒸気圧を微調整し続ける。アレンは甲板のど真ん中で崩れ落ちそうになる自分の体を必死に支え、「頼む、乗り越えてくれ……!」と心の中で叫ぶ。

どれほど揺れただろうか。突如として風が薄れ、ぴたりと揺れが小さくなった。混乱する頭を振り払いながら前方を見やると、濃密な雲のカーテンが後方へ遠ざかり、代わりに透き通るような薄青い光景が広がっている。

「成功……したのか?」

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