第壱話 第弐話
歌声の罠
月日は流れ、櫻村には平和な日々が続いていた。乙女の魂が昇天したあの日から、村人たちは井戸の近くでの遊びを禁止し、その場所は静寂に包まれていた。しかし、平穏は長くは続かなかった。
ある日の夜、村の若者、光一(こういち)が友人たちと酒を酌み交わしていた。席上の話題は、やがて乙女の伝説や井戸の話に。光一は半ば酔っ払いながら、井戸の近くで歌声を再び聞こうという冗談のような提案をした。友人たちも興味津々でその提案に乗った。
夜の闇に包まれた森の中、彼らは笑い声をあげながら井戸の方向へ進んでいった。そして、到着した彼らは、ふざけ合いながら井戸のまわりに集まった。続いて、光一が突然、乙女の歌を大声で歌い始める。
しかし、その歌声が響くと同時に、井戸からは別の歌声が応えるようにして聞こえてきた。その声は乙女のものではなく、より深く、闇のような重さを持った声だった。
皆は驚きのあまり声を上げた。そして、その歌声がやんだ後、彼らは何かを目撃する。井戸の水面が真っ黒に染まり、その中から黒い影が伸びてきた。その影は、手の形をしており、彼らに向かって迫ってくる。