不穏な兆候と内面の崩壊
薄暗い探査艇内、長い夜が明けると同時に、船内に一層の不穏な空気が漂い始めた。遺跡内部から持ち帰った未知の物品の影響は、すでに各自の心に静かなる不安を芽生えさせ、科学と理論だけでは説明しきれない霧のような恐怖が、次第に現実となりつつあった。船内の各所では、異常なデータと共に、個々の精神状態にも変化が現れていた。
斎藤は、モニターに映し出される連続したセンサーデータに目を通しながら、静かに呟いた。「温度の変動が予測を大幅に超えている…そして、磁場の異常も一筋のパターンが見えている。これは自然の摂理だけでは説明できない。」彼の声には、探査隊のリーダーとしての責任感と、過去の悲劇が蘇るかのような内面の痛みが微かににじんでいた。
一方、中村は、通信室に集まったスタッフに向けて、厳粛な口調で指示を出していた。「皆さん、昨夜から報告されている異常現象は、単なる機器の故障ではないと考えます。各自、データの再確認と、異常値の記録を徹底してください。特に、あの物品に接触した部位の周辺データには、明らかに通常とは異なる変動があるようです。」その目は、これまでの任務で培った冷静さと、不測の事態に対する覚悟を映し出している。
ローレンスは、端末の前に座りながら、静かに口を開いた。「私が解析した限りでは、あの物品は、古代の何らかの儀式に関連したエネルギーを放出しているようです。数値上は微小な変動かもしれませんが、その影響は精神面にまで波及しているように感じられます。これまでの記録と照らし合わせると、まるで封印された何かが覚醒し始めたかのようです。」
斎藤は眉をひそめつつ、データを操作する手を止め、静かに問いかけた。「ローレンス、君の解析で、具体的にどのようなエネルギーの波形が観測されているのか？ 通常の深海環境下であれば、このような変動はあり得ないはずだ。」