和菓子の灯がともるとき – 12月27日 前編

「さ、着いたわよ」

母が声をかけ、由香ははっと顔を上げる。そこには病室のドアが見えていた。「うん、行こう」と答えてドアをノックすると、奥から「どうぞ」という看護師らしき女性の声が聞こえる。母に続いて中に入ると、窓際に置かれたベッドで父・洋一が腰かけて外を眺めていた。その姿を見た途端、由香は「お父さん…」と声をかけつつも、胸がギュッと締めつけられるのを感じる。父の背筋は相変わらずまっすぐで、昔からの職人気質の雰囲気を漂わせてはいるものの、顔色はやはり優れない。頬が少しこけ、痩せた印象は否めなかった。

「由香が帰ってきたぞ。ほら、ちゃんと顔見せてやれ」

母が軽く父を促すと、父は振り返って微笑んだ。だが、その笑顔もいつもの勢いがないように見える。由香は半歩踏み出して、「お父さん、久しぶり。体は大丈夫?」と声をかける。父・洋一は「おお、由香か。まあ、いいとは言えないが、こうして座っているくらいにはな」と静かに言った。その言葉に若干のユーモアを交えようとする父の気遣いを感じ、由香は少し胸が痛い。

「これ、差し入れ。病院の食事は味気ないだろうし、食べられるなら果物くらいなら…」

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