和菓子の灯がともるとき – 12月31日 前編

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朝の冷え込みがいつも以上に厳しく感じられる大晦日の朝、病院から連絡が入り、父・洋一の一時退院が正式に決まった。由香と母・祥子は急いで迎えの支度を整え、車で病院へ向かう。看護師から簡単な説明を受け、洋一が病室を出てきたとき、その足取りはまだやや不安定だったものの、彼の瞳には自宅へ戻れる喜びがはっきりと宿っていた。「やっぱり家が一番落ち着くよ」と微笑む父の姿を見て、由香は胸が熱くなる。数ヶ月ぶりに家へ戻る父を無事に連れ帰ることができただけでも、今年最後の日を最高の形で迎えられそうだと思えた。

家に到着すると、母が玄関を開けて洋一を出迎える。「さあ、寒いから早く中に入りましょう。暖房つけておいたわよ」と声をかけると、父は小さくうなずきながら、「懐かしい匂いがするな」とつぶやいた。長い入院生活の中で、家の温もりをどれだけ恋しく思っていただろうか。由香は父の腕を支えつつ居間へと通し、「お父さん、おかえりなさい」と改めて言葉をかける。父は「おお、ただいま」と照れたように笑い、周囲を見回す。その表情には、安堵や感謝が滲んでいた。

一息つく間もなく、母と由香は大晦日を迎える準備にとりかかる。まずは急きょ決まった亮のイベント用に、簡単な和菓子を作らなければならない。以前のように大量生産はできないものの、父のレシピノートに載っている季節感のある饅頭を少しだけでも用意できれば、イベントを盛り上げる一助になるはずだ。由香は埃を払って取り出したボウルに粉を入れ、少しずつ水を加えながらこね始める。一方、母は餡を練る鍋を温めつつ、「こういうときに限って時間が足りないわね」と苦笑いしながら、たねを焦がさないようにかき混ぜる。

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