和菓子の灯がともるとき – 12月28日 前編

小声でそう漏らしながら、由香は隅から隅まで丁寧に雑巾をかける。棚の上にうっすら降り積もった埃をぬぐい、床を磨き、不要になった包装紙や段ボールをまとめて片づける。店内は決して広くはないが、和菓子を作る作業場や器具を置くスペースがあるため、思ったよりも時間がかかりそうだった。それでも、できることなら一日で目に見える変化をつくりたい。小さなアクションを起こすことで、父が元気になったときに喜んでくれるかもしれないと考えると、自然と由香の手は動き続ける。

やがて埃が立ちこめてきたのか、少し息苦しくなって扉を開け放した。外の寒い空気が流れ込んできた瞬間、視界の端に人影が見える。振り返ると、そこには幼馴染の亮がいた。

「やっぱり来てたんだな。こんな寒いのに、朝からえらいなあ」

にこやかに声をかける亮は、店のシャッターの前で少しだけ体を丸めている。由香は心底驚きつつも、ほっと安心する気持ちになり、「どうしたの? 今日は早いんだね」と声を返す。すると亮は「ああ、ちょっと商店街の人と会う予定があったんだけど、その前にここをのぞいてみようと思って」と言いながら店内を覗き込むように視線を向けた。

「掃除してるの? 一人でやるのはさすがに大変じゃないか?」

亮の問いかけに、由香は「うん。でも放っておくとますます埃だらけになるし、何もしないよりはマシかなって」と笑う。すると亮は「俺も手伝うよ。どうせ待ち合わせまでまだ時間あるし、二人でやったほうが早いだろ?」と申し出てくれた。正直、助けてくれる人がいるととても心強い。由香は「いいの? 助かるけど、無理はしないでね」と答え、雑巾をもう一枚取り出して手渡した。

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