錆びた鍵の音楽 – 第1話

序章: 消失

19世紀のヨーロッパ。都市の中心部に佇む荘厳なコンサートホール「ルナリアホール」。そのホールの中には、多くの貴族や音楽愛好家たちが集まり、今宵の特別な演奏会を心待ちにしていた。豪華なシャンデリアが天井から輝きを放ち、深紅のカーペットが足元を飾る。壁一面には金色の装飾が施され、その絢爛さは訪れる者たちを魅了してやまない。

観客席はゆっくりと暗転し、舞台のカーテンがゆっくりと上がる。そして、スポットライトが中央の巨大なグランドピアノに当たる。そのピアノの前には、ヨーロッパで最も称賛されるピアニスト、アルトゥーロが静かに座っていた。

彼の演奏が始まると、会場はその美しい旋律に包まれる。アルトゥーロの指は鍵盤の上を踊るように動き、彼の情熱と技術が混ざり合った音楽が空間を満たしていく。彼の選んだ楽曲は、悲しみと喜び、失望と希望が交錯するもの。観客たちはその音楽に身を任せ、時には涙を流しながら聴き入っていた。

ところが、曲のクライマックスが近づく中、何かがアルトゥーロの心を乱したようだった。彼の演奏が一瞬乱れ、その後、彼は突如として深い息をつき、ピアノの演奏を中止する。舞台の上、彼は静かに立ち上がり、何も言わずにその場を去ってしまう。

会場内は一瞬の静寂が流れ、その後、驚きと困惑の声が上がった。一部の観客は拍手を送るものの、多くの者がアルトゥーロの突然の行動に戸惑っていた。彼がどこへ行ったのか、何が彼をそうさせたのか、その答えを知る者は誰もいなかった。

舞台裏では、スタッフたちがアルトゥーロを追いかけるが、彼の姿は既にホールの外へと消えていた。その夜、ルナリアホールは不思議な雰囲気に包まれたまま夜が更けていった。

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