遺された手がかり
翌朝、街は一面の銀世界に覆われていた。昨夜降り積もった雪が静かな朝をさらに際立たせている。大沢陸は警察署に戻ると、机の上に置かれた怜子のプロフィールを見ながら考え込んでいた。早坂怜子、28歳。幼少期から数々のコンクールで優勝し、天才ピアニストとして注目されている。その経歴には一片の隙もない。しかし、完璧な表舞台の裏に何かが隠されているような気がしてならなかった。
「大沢さん、早坂怜子さんの関係者リストが届きました。」
若手の刑事がファイルを手渡す。陸はそれを受け取り、ざっと目を通すと、いくつか名前が気になった。その中でも特に目を引いたのは、ホールの責任者であり、怜子のキャリアを支え続けた三浦真知子の名前だった。
「まずは三浦真知子に会ってみるか。」
陸はコートを羽織り、雪の中をホールへと向かった。
真知子のオフィスはホールの隅にある小さな部屋だった。机の上には書類が山積みで、彼女がこのホールの運営に全身全霊を注いでいることが伺えた。真知子は陸を迎え入れると、どこか落ち着かない様子で椅子に腰を下ろした。