悠人は困惑しながらも、これが怜子自身の手によるものだと確信した。彼女が伝えたかったことは、まだ完全には解明できていない。
その夜、陸は怜子の恩人である三浦真知子を訪ねた。真知子は怜子が通っていた音楽学校とも深い関わりがあり、火災事故についても何か知っている可能性があった。
「早坂さんが10年前の音楽学校の火災事故に関わっていたという話を聞きました。そのことについて教えていただけませんか?」
陸の問いに、真知子は一瞬目を伏せたが、やがて静かに話し始めた。
「その事故は、怜子にとって人生の大きな転機だったと思います。彼女は当時まだ16歳で、学校でも注目を浴びる存在でした。でも、火災が起きてから、彼女は自分を責め続けていました。」
「自分を責めていた? なぜですか?」
「火災が起きる直前、怜子は他の生徒たちと何か口論していたそうです。それが直接の原因ではないと思いますが、彼女は自分のせいであの火災が起きたのではないかと……。」
真知子の話を聞きながら、陸は怜子の心の中に隠された深い傷を想像していた。それは、彼女の成功の裏に潜む痛みであり、彼女自身を突き動かしてきた原動力でもあるのかもしれない。


















