夜明けのペンダント – 第1章: 第1話

廊下の外から、低く唸るような地鳴りが聞こえたかと思うと、宴会場の大きな窓に不自然な黒雲が浮かび、快晴の夜空を覆い隠す。集まった客たちはざわめき、腕を引き寄せ合いながら窓の外へ視線を移した。

「雨雲なんて、一切ないはずでは……?」

誰かの声が震え、続いて空気を切り裂くような雷鳴が轟いた。シャンデリアはきしむ音を立て、天井に取り付けられたガラスが軋む。音楽隊は手元を見失い、攣れた弦がかすかに共鳴する。

ペンダントを抱える高橋の目が、宝石の薄紅の光に引き寄せられる。石の内部では淡い青白い閃光が迸り、まるで宝石が生き物のように呼吸するかのようだった。

「こ、これは……!」

高橋が思わず声を上げると、和田も目を見開いた。だが次の瞬間、宴会場の戸口にひとりの人物の影が浮かび上がる──白いコートを羽織り、フードを深く被ったその姿は、窓外の一瞬の閃光にだけ際立って見えた。

人々は誰も語らぬまま、その黒い影に息を呑む。わずかに歪んだ額縁、揺れるシャンデリア、そして不吉にも静かな波打ち際の音だけが、館内に残った。

高橋は震える手でペンダントをそっとポケットに押し込み、鋭い視線を会場の隅で揺れる白い影へと向けた。次の瞬間、影は音もなく消え──ただ残されたのは、不気味な余韻と、呪いの幕開けを告げる静寂だった。

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