夜明けのペンダント – 第3章: 第1話

「――確かに、昨晩、黎明の会を自称する人物から鑑定依頼を受けました。だが、その時点で私は何も知らず、ただ宝石の価値を見極めるつもりでした」

辰巳は淡々と語る。ペンダントの欠片を包む絹袋を取り出し、細心の注意で箱を開けた。その布地には古式ゆかしい刺繍が施されており、明らかに松永家の祭壇で使われたものと同一だった。

「私は商人です。呪いだ伝承だと騒いだところで、商売をするしかない。だが、例の人物は突然、小声で言い残して立ち去って──『それが私たちのペンダントだ』とだけ」

辰巳は視線を遠くに飛ばし、苦い表情を浮かべる。

「その後、店を閉めようと外へ出たところで、妙な気配を感じまして……誰かに付きまとわれているような。すぐに家に帰ろうと思ったのですが、足が自然とこの店に戻されてしまった──そんな妙な感覚でした」

玲はメモ帳に要点を記しつつ、ケースの内側に貼られた小型の防犯カメラに視線を移す。

「キャプチャ映像の途切れはありましたか?」

辰巳は苦笑しながら首を振る。

「不思議なことに、その数秒だけ録画が停止していました。タイミングはまさに閉店後の数分間です」

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