異世界冒険者ギルドの日常 – 第3章:前編

 翌日昼過ぎ、旅支度を整えた私たちは馬車で王都へ向かう街道を走っていた。

 御者台にはクラリスとティリア、車内に私とリリィ、そして屋根の上でガルドが陽射しを浴びながら見張り役。

「王都まで三日。その間に襲撃が来ると思う?」

 リリィが工具を弄りつつ囁く。

「帳簿を渡す前に始末するのが一番手っ取り早いだろうね。護衛は万全を期した方がいい」

 私は膝上の小型魔導端末にログの複製を暗号化して格納する。転送系統図は二重にパスワードをかけた。──“月末締め”と“笑顔三百%”。前世で自分を支えた合言葉だ。

 夕暮れ、街道沿いの古い石橋を渡るときだった。

 ヒュッ、と矢が風を切り、御者台の手綱が断たれる。馬が嘶き、馬車が横転しかける。

「待ち伏せか!」

 ガルドが屋根から跳び降り、着地と同時に大剣を抜いた。

 茂みから現れたのは全身黒装束の一団。肩に刻まれた灰色の三日月紋章──王都直属の影衛兵〈ダスクヘッド〉だ。

「財務局令、第七五九条に基づき、危険物証拠の押収を行う」

 無機質な声。だが腰の短杖に宿る紫光は、昨日暴走しかけた魔紋炉の色と同じ。

「ティリア!」

「もう照準は合わせてる!」

 矢が二本、木立の影を射貫き、襲撃者の詠唱を遮る。

 対して敵前衛が影を纏いガルドへ突撃。金属音が弾け、剣戟が火花を散らす。

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