言葉に、馬車の中に冷たい空気が流れた。
リリィが工具を握りしめる。
「じゃあ向こうも“次の手”を準備してくるってことか」
「そのとおり。こちらは数字で予測し、先回りするしかない」
私は端末を再び開き、王都までの街道宿と衛兵詰所の配置、影衛兵の過去出没地点を重ね合わせてリスクマップを作る。
赤く点滅する箇所は三つ。最短ルートの峠道が真っ赤に染まった。
「危険度最小は東回りの水上路だ。荷馬車を船に乗せる手間はあるけど、奇襲の余地が減る」
クラリスが唇に指を当て、即決する。
「迂回しましょう。ティリア、船便の手配を。ガルド、夜警は交代制で」
「任された!」
「了解よ」
馬車は再び走り出す。夕陽は沈み切り、群青の空に一番星が灯った。
私は荷台の隅に腰を下ろし、帳簿を胸に当てる。
(財務局第四課──次の敵は、きっともっと狡猾だ)
しかし怖れよりも、数字が解いたパズルをさらに掘り下げる興奮の方が大きかった。
目を閉じ、脳裏に浮かぶセルの海を泳ぐ。闇の資金を洗い出し、仲間とともに正義へ帳尻を合わせるまで、私は止まらない。
遠ざかる車輪の音に混じり、何処かで夜鳥が鳴いた。
王都への長い道のりは、今ようやく幕を開けたばかりだった。


















