虚構で膨らんだ数字が一斉に負債へ変わり、黒帳簿は灰に変わった。
グラディウスの足元を支えていた魔力陣が砕け、ひざまずいた宰相の背でマントが重く垂れる。
「そんな……数字は永遠に増やせるはずが……」
「数字は嘘をつかない。増えるだけの帳簿は帳簿じゃない」
私は残った紙片を拾い、宰相の前へ差し出す。
「ここに記す。あなたが捏造した資産は、すべて“0”だ」
鐘が鳴った。午前十時。最終決算の時刻だ。
大法廷の扉が四方に開き、傍聴席がざわめく。評議員たちは崩れた円卓と倒れる宰相を目の当たりにし、騒然となった。
マリエル監査官が前に出て高らかに宣言する。
「灰色宰相グラディウス、及び財務局第四課は公金横領・粉飾会計の罪で現行犯逮捕とする! 本帳簿は証拠として監査院が正式に保全!」
憲兵隊が駆け込み、宰相は静かに手錠を受け入れた。その目は虚ろで、数字を見る焦点を失っていた。


















