異世界冒険者ギルドの日常 – 第7章:後編

 荷受けカウンターに現れたのは、薄桃色の髪を揺らす少年──新人冒険者カミル。腕にはグリフォンの爪傷が生々しく残っている。

「報酬が足りなくて……治療薬を前借りできますか?」

 彼は獲りたての魔物素材を抱えていたが、鑑定するとB級相当。標準価格でも薬代には届かない。

 私は《エクスセル》を起動し、在庫リストから近々期限切れになるポーションを抽出した。

「これなら廃棄直前。半額で行けるよ」

 少年の目が潤む。「ありがとうございます!」

 が、処理を進めようとした途端、背後でリリィが悲鳴を上げた。

「布が燃えてる!」

 振り返ると、鍛冶台のバーナーから飛んだ火花がまだ裁断前のチェインメイル生地に移り、白い煙が上がっている。

 「あっちを見てる場合じゃ……!」

 ティリアが水矢を放ち、ガルドが帆布で叩いて鎮火したが、布の端が黒く縮れていた。

「せっかくのミスリル糸が~!」リリィは涙目。

 私は少年の傷口と焦げ跡を同時に見比べ、頭の中で数字を巡らせた。

 (半額ポーション × 需要1、損耗布地 × 修繕費。……両方救える式は?)

「カミル君、提案がある」

 私は仕訳帳をくるりと回し、布地の損耗分を“研修素材費”として扱う新たな行を追加した。

「新人研修用に防御布の修繕を体験――って名目で、あなたが手伝ってくれれば作業手当を支払える。ポーション代に上乗せすれば足りるはず」

「やります!」

 少年は即答し、リリィも嬉しそうに頷いた。

「じゃあこの焦げをほどいて織り直す作業お願い! チェインメイルは細かいんだけど、君なら指が細いし向いてるよ!」

 ティリアが布を広げ、ガルドは巨大ルーペを持ち出す。「細かい作業は苦手だが応援するぜ!」

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