夕方、広場の桜が夕陽に染まる頃。
支部長室に呼ばれた私は、クラリスから一通の手紙を手渡された。差出人はマリエル、内容は短い。
《表彰式のスピーチ、あなたに一任。テーマは「数字と勇気」》
釘付けになった私を見て、クラリスがくすりと笑う。
「窓口で鍛えたスピーチ力、王都でも見せてあげなさい」
「数字と勇気か……具体例が多すぎて悩みそうだ」
「あなたの日報を読み返せばいいわ。“数字と笑顔”は同義でしょう?」
背中を押される言葉に、私は肩の力を抜いた。
夜──帳簿の最後の行に筆を走らせる。
《本日の窓口:クレーム0、笑顔141、未来への布地1反》
桜色のチェインメイル生地は、倉庫棟の窓からこぼれる月光をほんのりと反射していた。
王都表彰式まであと三日。
数字と勇気のスピーチ、そして仲間と歩く桜色の栄誉。それはきっと、窓口係の日常の延長線上にある。
私はそっと電卓型魔導具を閉じ、深呼吸した。
「よし。明日の仕訳は“旅費計上”から始めよう」
異世界冒険者ギルドの日常は、まだまだ決算を迎えない。
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