異世界冒険者ギルドの日常 – 第10章:前編

 六本の根管は祭壇地下回廊の六芒星の頂点に配置されていた。

 「タイマーマクロを同期――カウント五秒からスタート」

 私は腕の計算石をティリア、ガルド、リリィへ無線連結し、同期ピンを送信。数字の光が3人の眼前で脈動を始める。

 《5》 通路は震えて砂が落ちた。

 《4》 ティリアが弓弦を引き、魔力栓に矢じりを当てる。

 《3》 リリィはスパナを差し込み、歯車補助輪を起動。

 《2》 ガルドが両腕で弁輪を抱え込み、筋肉を隆起させる。

 《1》 私は全端末へ“課税100%”の関数を投入。

 《0》

 矢が撃ち込み、スパナが回転し、大剣の柄が弁輪を一気に押し込む。同時に根管六本が「閉」の符号へ転じ、炉心から上がる魔力流が瞬時に細り、黄金炉の脈動が静まった。

 だが――祭壇頂部で何かが爆ぜた。

 見上げると、世界樹の若枝が血筋のような黒い亀裂を走らせ、紫炎を噴き出している。その影から現れたのは、複数の黒ローブ集団。胸に〈γ〉の紋章。

 「お前たちが簿外“γルート”の本体か!」

 私の声に応えたのは甲高い笑い。

 「世界樹貨を無限鋳造し、通貨を再定義する! ゼロ除算の楽園を作るのだ!」

 ティリアが即矢を番える。だが黒ローブは世界樹の根鎖を背に魔力盾を展開、矢を弾き返した。

 リリィは肩からジャマー弾を投げつけるが、盾が数式の壁で吸収してしまう。

 「数式側の位相が違う! 互換できないタイプだ!」

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