古びた手紙の秘密 – 第4話

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母とのささやかな衝突を経て、アカリは祖母の過去をさらに深く知るために母と協力して日記や写真の整理を続けた。アルバムのページをめくるたび、そこには祖母の若かりし頃の姿や、見慣れない場所で撮られた写真が多く残されている。ページの端には「〇〇旅館前」とか「家族総出で田植え」など、昭和の時代を感じさせる書き込みもあった。母が日記の束を取り出して読み始めると、そこには祖母の複雑な思いが綴られている。戦後の混乱期で何もかもが不足していた時代に、祖母が自分の夢を諦めざるを得なかったことや、家業を継ぐために働きづめだった日々の辛さ、そして家族の期待に応えようとする一方で、幼い頃からの知り合いとの縁談を断ることができなかったことなどが、丁寧に書かれていた。

「ばあちゃん、こんな苦労をしてたんだ……」アカリは何度となく息を呑みながら、日記の言葉を追う。そこにはカズマの名ははっきりと書かれていないものの、「私が本当になりたかった自分は、もうどこにもいないかもしれない」と、まるで失った恋を悼むような表現が繰り返されていた。さらに母がページを進めていくと、ある日付の欄に「私たちは最後にもう一度だけ手紙を交わした。けれど、その後は連絡を絶つしかなかった」という、一際印象的な文章が出てくる。アカリはそれを読んで、あの未送の手紙や祖母の手元にあったカズマの手紙がまさにその時期のものだったのだと確信した。

「結局、ばあちゃんがカズマさんと会わなくなったのは、家族の反対も大きかったのかもしれないわね」と母がぽつりとつぶやく。「この日記だと、戦後の混乱でおじいちゃん(祖母の父)も仕事がうまくいかなかったみたい。それで、早く嫁ぎ先を決めないと家族が路頭に迷うかもしれない、そんな状況だったんだと思う。ばあちゃんは、泣く泣くそれを受け入れるしかなかったんじゃないかしら。」ページをめくる手が小さく震えているのがわかり、アカリは母の横顔をそっと見つめる。母も祖母の苦悩を初めて知る立場であり、他人事のようには思えないのだろう。

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