風味は再会の予感
木枯らしが去り、町役場のホールには春を待つ人々の期待が集まっていた。ステージ中央の大きなスクリーンに映るのは、白雪ニンジン畑の朝靄とリナの屋台で揺れる湯気の写真。席を埋める農家、商店主、観光課職員──そのすべてが、この小さな町の未来に関わる。
リナは深呼吸をし、マイクを握った。
「私たちの畑で取れる野菜には、都会にはない物語があります」
スライドが切り替わり、白雪ニンジンの糖度グラフが映る。
「霜が降りた翌朝、甘さのピークが訪れる瞬間を捕まえる――それがこの町の“旬”なんです」
説明を終えると拍手が起こったが、まだ足りない。リナは確信していた。数字や写真だけでは、あの甘みと香りは伝わらない。
すると後方の扉が軋み、ホールに冷たい外気が流れ込んだ。視線を向けると、コート姿の男性が大きなクーラーボックスを抱えて立っている。
「タケル……」
名前を呼ぶ前に胸が熱くなり、リナは言葉を失った。