ニューロネットの夜明け – 第1章:闇のコード|前編

「入り口は……ここか」

脳内チップを介した高度なハッキングで、エリカはヴァル・セキュリティの外郭サーバーに侵入しようと試みる。コードの隙間を縫うように、深夜の監視が手薄なタイミングを狙って手を伸ばす。だが、まるで荒々しい波にのまれるように、彼女のアクセスは一瞬で弾かれた。

「なんて防御なの……」

思わず声が漏れる。モニターには無数の警告アイコンが点滅し、端末が危険を報せるアラートを鳴らしている。通常のセキュリティとは桁違いの速度で、アクセスの所在を逆探知しようとしてくる気配さえ感じ取れた。エリカは瞬時に接続を切り、倉庫の電源系統まで操作して痕跡を消す。

焦る胸の鼓動をなんとか収めようと深呼吸をしたとき、モニターの片隅に残されたログの断片に目が留まった。そこには「Leonard」という名前が記録されている。まるで封印されていた記憶の鍵をこじ開けるかのように、その名前を見た瞬間にエリカの脳裏にかつての顔と声が蘇る。

「……レオナルド。やっぱり、あんたが関わってるのね」

静かに呟きながら、エリカは椅子の背にもたれる。レオナルドと聞いて思い出すのは、以前同じハッカーコミュニティに属していた頃の記憶。お互いにコードを磨き合い、情報を交換し合った仲間でもあった。しかし何年も前、彼は突然姿を消し、その後、ヴァル・セキュリティの幹部候補として名を連ねたという噂を耳にしていた。

思考を巡らせているうちに、エリカの視界が薄暗く揺らぎ始める。頭の奥で微かな鈍痛が走り、幼い頃の記憶が不意にフラッシュバックを起こした。部屋の片隅で、まだ小さかった自分が頭を抱えて震えている。医師が必死で手を伸ばし、「ニューロチップのエラーです、早く遮断を……!」と叫んでいた光景。

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