ニューロネットの夜明け – 第1章:闇のコード|後編

ミアが指差した先には、人間の脳波や感覚情報を表すような数値体系が埋め込まれていた。通常のセキュリティプログラムには見られない構造をもっており、明らかに“何か”を処理するための仕組みが隠されているようだ。

「意識データ、みたいなものにアクセスしているっぽい。あまり見たことないフォーマットだよ。脳波や思考パターンを扱う研究なんかで使われる形式に近い気がするけど……」

「やっぱり、そう思う?」

エリカはモニターを睨むように見つめたまま、唇をかむ。彼女の心には、幼少期のチップ誤作動の記憶が重くのしかかっていた。脳の深層に直接干渉する技術が、もしも本格的に悪用されるとしたら——その危険性に対する直感が、エリカを突き動かしていた。

「どうしてセキュリティ会社の防壁に意識データの仕組みが組み込まれてるんだろう」

ミアは首をかしげる。

「単にハッカー対策にしては、やりすぎな感じ。それよりも、人の脳内チップを逆手にとって何かをしようとしているように思えるの」

「ヴァル・セキュリティなら、政府や軍事系とのつながりもあるしね。もしかしたら、新しい形での監視や制御システムを構築しているんじゃないかって疑ってる。だけど今の情報だけじゃ、はっきりしたことはわからない」

エリカは疲れがにじむ目元を押さえながら、作業椅子に座り込む。何とかもう少し踏み込んで調べたいが、あの強固な防壁を再度突破するのは容易ではない。彼女はモニターに残るコードをさらに細かく解析しながら、悔しそうに言葉を続ける。

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