ニューロネットの夜明け – 第1章:闇のコード|後編

第1章:前編|後編

アジトの入り口を閉めたエリカは、まだ薄闇の残る倉庫内を抜け、奥にある作業スペースへと足を運んだ。そこには無骨な鉄製の棚や古びたモニター、散らかった工具類が所狭しと並んでいる。いくつかの装置が低く唸りを上げ、周囲を照らす蛍光灯の明かりは白く頼りない。夜に渡って続けたハッキングの疲労感を覚えながらも、エリカは意識を集中させるように深呼吸をしてから、卓上のコンピュータ端末を起動した。

「エリカ? 戻ってたんだね。どうだった?」

奥の作業台から顔を上げたのは、メカニカルエンジニア兼プログラマーのミアだ。彼女はエリカの数少ない友人であり、協力者でもある。ニューロチップが高度に普及した社会に懐疑的な家庭で育った彼女は、チップを搭載することに抵抗感を抱きつつ、技術への探究心から必要最低限の機能だけを許容しているという、やや複雑な立場にいる。

エリカは片手で髪をかき上げながら、ため息混じりに答えた。

「思ったよりも防壁が強固で、正面突破は失敗。それでも少しだけ痕跡を拾ったわ。ヴァル・セキュリティがテスト中の新しい防壁、ただのファイアウォールじゃなさそう」

そう言いながら、端末の画面に先ほど入手したログファイルを投影する。そこには英数や記号が入り乱れたコードの断片が並んでいた。ミアは椅子ごと画面に近づき、鋭い視線を向ける。

「これ、随分複雑だね。表面上は暗号化されてるけど、この部分……」

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