ニューロネットの夜明け – 第1章:闇のコード|後編

エリカの瞳には、微かながら強い意志の光が宿っている。自分が本当に成すべきことは何なのか。それは“真実を暴く”という行為以上に、“あの時の自分のような存在を救うこと”ではないか——そんな思いが、頭の奥にちらりと浮かんだ。

ミアはその姿を見て、小さく息を吐く。

「わかった、協力する。深入りしすぎないように気をつけながら、リスクを最小限にしてやってみよう」

「ありがとう。ごめんね、巻き込む形になって」

「いいの。私も興味あるし、何よりこの社会の歪みにうんざりしてるから」

二人の間に、ほんの一瞬、ほっとした空気が流れた。しかしモニターに表示されたコードの断片や、ニュースで取り上げられるチップ犯罪などを考えると、状況は決して楽観視できない。果たして、社会全体が意識データの技術にどれだけ依存してしまうのか。そしてそれを支配する側が誰であるのか——その答えが見えるまでには、まだ多くの時間とリスクを要するだろう。

やがて倉庫の中には微かに朝日が差し込み、埃の粒子が穏やかに浮遊しているのが見える。エリカは立ち上がり、端末に保存したログファイルをUSBメモリに複製する。彼女の手には、これから先の戦いに挑む覚悟と、過去のトラウマを克服したいという思いが同居していた。何としてでも、この曖昧に包まれた世界の闇を暴かねばならない——その決意を胸に、エリカは無造作に束ねた髪を手ぐしで整え、ミアと共に次の行動を検討し始める。

第1章:前編|後編

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