ニューロネットの夜明け – 第2章:ヴァル・セキュリティの影|前編

「……もちろん。今さら引き返せる道はない。わかってるよ」

レオナルドは努めて冷静にそう答えたものの、その声には微かな震えが混じる。誰にも見せたくない複雑な感情が、彼の胸中を駆け巡る。かつて自由なハッカーだった頃とは違い、いまや多くのものを背負い、多くの妥協を重ねてきた。それでも本当にこの計画が人類のためになるのか、疑問を振り払うことはできない。

「安心して。プロジェクトが成功すれば、あなたの評価も企業の評価も揺るぎないものになるはず。そのためにも、余計な障害は排除しなくちゃね」

ビアンカはそこまで言うと、口元にわずかな笑みを浮かべた。レオナルドは無言のまま、スクリーンの映像をオフにする。会議室はすっかり闇に近い薄暗さに沈み、かすかな機械の駆動音だけが響いた。

「障害というのは……やはりエリカのことか?」

「ええ。彼女は優秀らしいわね。あなたと過去にどんな関係があったのか知らないけど、ひとたびプロジェクトの核心を掴まれたら厄介だわ。あなたも用心して」

ビアンカはドアに向かいながらそう付け加え、ヒールの音を静かに響かせて出て行った。薄いジャケットの裾がなびいて、かすかな風がレオナルドの頬をかすめる。

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