ニューロネットの夜明け – 第2章:ヴァル・セキュリティの影|前編

「新型防壁は順調みたいね。けれど、シナプスについての進捗はどうかしら?」

ビアンカの声にはどこか急かすような響きがある。レオナルドは彼女を真正面から見据え、少しだけ眉を寄せた。

「今のところ大きな遅延はないが、やはり人間の意識を取り扱う以上、安全面の確認に時間がかかる。特に精神への影響度合いは、充分なモニタリングが必要だ」

「あまり悠長にしている時間はないわ。政府としても、早期に成果を出してほしいと思っている。世界中が次世代テクノロジーを欲している今、先行することに意味がある」

ビアンカの目は鋭く、どこか狂信的な理想を背負っているようにも見えた。人間の意識を共有・統合するという計画——それは彼女にとって“戦争や争いをなくすための最終手段”のようなものだった。

「ビアンカ、俺にはまだ疑問がある。意識を繋げば摩擦や誤解が消えるなんて、ただの理想論で終わるかもしれないだろう」

レオナルドの言葉は少し硬い。企業側の立場としては、政府と協力することで莫大な資金や権力の後ろ盾を得られる半面、倫理面や人権問題が絡むことへの不安を拭い切れずにいた。

「でも、あなたはもうこのプロジェクトの中心人物よ。疑問を抱えるのは勝手だけど、それでも進めるしかない。おわかりでしょう?」

淡々と告げるビアンカに、レオナルドは一瞬、言葉に詰まる。自分のキャリア、企業の繁栄、そして政府が握る巨大な力。彼は心の中で葛藤していた。

タイトルとURLをコピーしました