ニューロネットの夜明け – 第2章:ヴァル・セキュリティの影|前編

「レオナルドさん、そのハッカーの件ですが……どうやら“エリカ”という名が浮上しています。以前、お知り合いだったとか?」

軽く唇を噛んで言葉を飲み込むレオナルド。その表情は一瞬、緊張感を帯びた。

「……なるほど。彼女が動き出したか」

そう呟いた声は低く、確かな焦りを含んでいた。過去にハッカーとして名を馳せた自身だからこそ、エリカの腕前をよく知っていたのだ。彼女は一筋縄ではいかない。防壁を突破されてしまえば、社内の機密情報、ひいては“シナプス”に関する資料まで流出しかねない。レオナルドは部下たちに向けて毅然とした態度を取り戻し、ミーティングを続行する。

「追跡チームをさらに拡充しましょう。最優先でエリカの居場所を突き止めてください。実際に動きがあった以上、いつ再度仕掛けてくるかわからない」

こうしてミーティングは一通りの議題を終え、スライドが次々と切り替わっていく。最後にレオナルドが簡潔なまとめを述べ、参加者を解散させた。社員たちが部屋を出て行くと、一気に静寂が広がる。

会議室に残ったレオナルドは、スクリーンを見上げたまま軽く息をつく。背中に張り付く汗が、彼の内面の緊張を物語っている。自動でブラインドが下がり、室内は薄暗くなる。すると、そのタイミングを計ったかのように入口のドアが静かに開いた。

入ってきたのは、ビアンカという名の政府関連研究者。ヴァル・セキュリティとは別の立場から“プロジェクト・シナプス”に関わっている女性だ。彼女は白衣の上に薄手のジャケットを羽織り、冷ややかな表情でレオナルドを見つめる。

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