ニューロネットの夜明け – 第2章:ヴァル・セキュリティの影|後編

「やっぱり、脳内チップから得られるデータを処理してるみたい。意識の断片とか、そういうものをリアルタイムで解析している可能性があるね」

「単なる個人情報やアクセス履歴を盗むだけじゃない…もっと深いレベルで人間をコントロールできるかもしれないってことか」

エリカの声には険しさが混じる。脳内チップの誤作動で苦しんだ過去が再び頭をよぎる。もしあの恐怖が、大規模なシステムの中で無数の人々を脅かすような事態となれば、取り返しのつかない悲劇を招きかねない。

「でも深追いはまずいよ。あの防壁、こっちのアクセスをかなり正確に捕捉してくる。下手するとアジトの位置がバレるかもしれない」

ミアの言葉を受けて、エリカは一度モニターから目を離した。彼女は廃倉庫を改装したこのアジトを長らく拠点にしてきたが、ヴァル・セキュリティの監視能力がここまで向上すると、安全とは言い切れない。

「さっきもネットワークが変な挙動をしたわ。VPNを二重に張ってても追跡の手が伸びてくるみたい。いつか奴らはここを突き止めるかもしれない」

エリカは倉庫の薄汚れたコンクリート床を見下ろす。アジトを移すかどうかも検討しなければならないが、それよりも先に調べたいことが山積みだ。どうやっても時間が足りない。

「エリカ、いったん活動を控えて身を隠すのはどう? このままじゃ危険すぎると思う」

ミアは躊躇いながらも提案する。彼女はエリカの行動を全面的にサポートしているが、そのあまりのリスクに内心ハラハラしていた。ヴァル・セキュリティが本格的に動き始めれば、ハッカーの一人や二人、消すくらいの力は容易に持っている。

だが、エリカは首を横に振る。

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