「それじゃ真実にたどり着けない。私が見つけたコードの断片だけでも、相当ヤバい匂いがする。脳内チップで人間の脳波を統合しようとでもしてるのか、想像したくないけど……このまま放置すれば、私が昔味わった苦痛をもっと多くの人が受けるかもしれない」
エリカはかつてのトラウマを思い出すように、深く目を伏せる。一方で、その恐怖心が今の行動を後押ししているのも事実だ。自分と同じ思いを誰にもさせたくない——その一念が彼女を突き動かしている。
「でも、今の段階でセキュリティを突破するのは難しいし、逆探知される危険が大きいでしょ？」
「ええ。それはわかってる。だから、次はハッキングだけじゃなくて、実際にヴァル・セキュリティの内部に潜り込むことも考えてる」
エリカの言葉に、ミアは一瞬目を見開いた。
「内部に潜入って……警備や検問も相当厳しいはずだよ。あのビルのセキュリティは有名だし、入退出にはチップ認証がいる。どうやって攻略するの？」
「詳しい方法はまだ検討中だけど、例えば偽造IDを作るとか、内通者を探すとか、いくらか手段はあるかも。あるいは、ヴァル・セキュリティにいる知り合いを当たってみるとかね」
エリカはモニターに映る企業のロゴを見つめ、レオナルドの名を頭に浮かべる。かつて一緒にハッキングをしていた頃、彼は誰よりも迅速かつ大胆な手口で大企業のセキュリティを突破していた。当時は同じ志を持っていたはずなのに、いつの間にかエリカが敵対する側に回っている。そして、今やその中心にいるのがレオナルド。
「そういえば、あんた昔、ヴァル・セキュリティの幹部候補と知り合いだったって言ってたよね？ 名前は……レオナルド？」
ミアが疑問符を浮かべながら言葉を継ぐ。エリカはわずかに眉をひそめて頷いた。
