ニューロネットの夜明け – 第7章:研究所への突入|後編

ビアンカの声が頭の奥に直接響く。その声は優しい囁きにも聞こえるが、エリカはそこに強烈な拒否感を覚える。幼少期にチップの誤作動で他人の思考に巻き込まれたあの恐怖が全身を駆け巡り、呼吸が苦しくなる。

「やめて……! 私は、私でいたいの。あなたみたいに他人の意識を踏みにじるやり方を認めるわけにはいかない!」

意識空間の中でエリカが抵抗すると、ビアンカの表情が一瞬歪む。彼女はさらにチップの出力を上げるように、脳波を強制同期させようとする。周囲の風景が揺れ、エリカの視界には過去のフラッシュバックが次々と流れ込む。手術室のような場所で苦しむ自分、必死に制止しようとする医師の声、混乱する思考……。

「ほら、見えるでしょう? あなたが抱えてきた痛みも、孤独も、意識の共有によって癒されるのよ」

ビアンカの声は誘惑めいた柔らかさを帯びながら響く。しかし、エリカの中には明確な拒絶があった。いくら痛みが消えるとしても、それは“個”の尊厳を放棄することに他ならない。

「誰かとわかり合うことは素晴らしいかもしれない。だけど、それは強要されてするものじゃない。ましてや、世界中の人々を強制的に繋げるだなんて……そんな独裁、絶対に認められない!」

意識空間の中で叫んだエリカの声は、じわりとビアンカの周囲に亀裂を走らせる。空間がビリビリとノイズを発し、ビアンカの思考が乱れるのを感じる。

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