ニューロネットの夜明け – 第7章:研究所への突入|後編

「なぜ……止めるの……。世界が……救われるはずなのに……」

ビアンカが呆然と呟き、震える手で床を支える。実験場のあちこちから火花の散る音やエラー音が聞こえ、制御装置のディスプレイには次々に真っ赤な障害メッセージが表示されていた。大規模実験のコアが破壊されたことで、意識統合のシステムは完全に停止したのだ。

エリカは体勢を立て直し、サイモンとミアと視線を交わす。三人とも、ここまでの混戦を経て体力を消耗しきっているが、一応の目的は果たした。何とかしてここから脱出しなければ、セキュリティが復旧すれば一斉に包囲されるに違いない。

そのとき、誰かが遠隔からドアを操作したのか、実験室の非常口のロックが外れる音がした。視線をやると、そこにはレオナルドが控えているような気配がわずかに感じられる。もしかすると、彼が裏からセキュリティの一部を無効化してくれたのかもしれない。エリカたちに逃げ道を作るために、企業と政府の立場を捨てて協力してくれたのだろうか。

「行きましょう、エリカ! ここを突破しないと、また追いつかれる!」

ミアが声を上げ、サイモンも辺りを警戒しながら頷く。エリカは最後にビアンカの姿を振り返る。床に崩れ落ちてなお、彼女の瞳には理想を捨てきれない色が残っていた。しかし、いまはもう時間がない。

ガラス越しに見えるカプセルの中で、被験者たちは混乱した様子だったが、強制的な意識共有が止まったことで徐々に正気を取り戻し始めているようにも見える。エリカはその光景にわずかな救いを感じながら、サイモンとミアと共に非常口へ急いだ。背後には火花と警報音が混じり合う中、ビアンカの低い嘆きと、破壊されたメインフレームの黒煙が静かに立ち上っていた。これで意識統合の大規模実験はひとまず止まったはず——だが、この先どうなるのか、まだ誰にもわからない。エリカは息を切らしながらも、ほんの少しだけ安堵の思いを抱き、急いで闇深い通路の奥へ走り去っていった。

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