夜の記憶 – プロローグ

記事を読み進めると、失踪したのは19歳の女性、椎名亜沙子という名前だった。月影町にある「月影の森」で最後に目撃されて以来、行方不明になったという。目撃情報も少なく、唯一の手がかりは失踪の直前、彼女が森の奥にある祠の近くを歩いていたという証言だった。しかし、その証言も曖昧で、事件は進展しないまま時が経った。

エリカは急いでノートを取り出し、夢で見た森や祠の様子を書き留め始めた。夢の中の記憶は薄れていくが、必死に思い出しながらスケッチも描いてみる。祠の形や木に刻まれた奇妙な模様が頭の中に蘇る。それはまるで、彼女に「何かを伝えよう」としているようだった。

「この夢は、ただの夢じゃない……」

エリカの頭の中で断片的な映像が繋がり始めた。祠、失踪事件、そして亜沙子という名前。これらが偶然ではないとすれば、一体どういう意味があるのだろうか?

彼女は無意識に記事を手に取り、もう一度じっくりと読み返した。亜沙子が失踪する直前、何をしていたのかは不明だが、地元の図書館で何かの資料を借りていたという記述があった。その資料とは一体何だったのか。

心の中に膨らむ疑問。それを解き明かさなければ、例の夢も自分を追い詰める恐怖も消えることはないだろう。エリカは椅子に深く座り込みながら、夢の中で見た祠の姿を思い浮かべた。

今はまだ何もわからない。しかし、何かが彼女をその森へと誘っていることだけは確かだった。

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