夜の記憶 – プロローグ

ベッドから起き上がり、窓を少し開けて冷たい夜風を浴びた。夢の中で感じた恐怖は現実にも影響を及ぼしている。手足が震え、心臓の鼓動が収まらない。「ただの夢よ、深呼吸して落ち着かなきゃ……」と自分に言い聞かせるが、その言葉はどこか頼りなかった。

翌朝、エリカはリビングの机に向かい、ノートパソコンを開いた。彼女はフリーライターとして働いており、主に地方の歴史や文化をテーマにした記事を書いている。しかし、ここ最近は仕事に集中できない日が続いていた。例の夢が頭から離れず、記事を書こうとすると手が止まってしまうのだ。

「また今日も進まないかもね……」独り言をつぶやきながら、適当にインターネットを眺め始めた。気分転換のつもりだったが、気がつくと「森」「祠」「夢」などのキーワードで検索をしている自分がいた。検索結果には心霊スポットやオカルト話が並ぶが、どれもピンとくるものはない。

机の上には積み上げたままの新聞があった。地元紙を定期的に取っているが、忙しさにかまけてほとんど目を通していない。ふと気になってその中から1部を手に取り、ページをめくる。すると、ある記事が目に留まった。

「月影町の失踪事件、未解決のまま10年」

エリカの心臓が一瞬止まるような感覚がした。記事には、彼女が夢で見た森に似た場所の写真が掲載されていた。それは10年前に起きた若い女性の失踪事件についての記事だった。彼女の夢と現実が繋がった瞬間だった。

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