夜の記憶 – 第1章

彼女はパソコンを閉じ、軽いコートを羽織って外に出た。早朝の空気はひんやりとしており、街の喧騒もまだ聞こえてこない。エリカは自然と足を図書館の方向へ向けていた。記事によると、亜沙子は失踪する直前、図書館で何かの資料を調べていたらしい。それがどんな資料だったのかは不明だが、彼女の調査に興味を引かれたエリカは、自分でも何か手がかりを見つけられるかもしれないと考えたのだ。

図書館に着くと、エリカはカウンターで司書に声をかけた。「すみません、月影の森に関する本を探しているんですけど……」

司書の女性は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに棚の位置を教えてくれた。エリカは教えられた棚に向かい、古びた書物の中から「月影町の伝承」というタイトルの本を手に取った。表紙はすり減り、タイトルも薄れているが、ページを開くと、この地域に伝わる不思議な話がぎっしりと記されている。

「月影の森は、人々の願いを叶える代わりに命を奪う――」

その一節に、エリカは思わず息を飲んだ。森の中には古くから「祠」があり、それを訪れた者にはさまざまな奇跡が起きると言われている。しかし、祠に近づきすぎた者は二度と帰ってこないという話も残されていた。

「まるで、亜沙子さんの話みたい……」エリカはつぶやきながら本を閉じた。

タイトルとURLをコピーしました