赤い封筒 – 第1話

「ところで、先生が以前書いた社会派ミステリーの新作、発売後の反響がすごいですよ。この調子で次の作品も期待されてますし……あんまり変な憶測が広まると、先生の活動に支障が出るかもしれません。それも心配で。」

「わかってる。あくまで慎重に、だけど確実に何をすべきか考えよう。まずはシンイチに連絡を取ってみるよ。」

 アキラはそう言い残してスマートフォンを取り出し、連絡先を確認する。しばらく逡巡してから、元刑事であるシンイチの番号に指を滑らせる。画面をじっと見つめながら呼び出し音を待つうちに、赤い封筒の文面が脳裏に蘇ってくる。抽象的な言葉が不気味な形を持って押し寄せ、腹の底をかき回していくような感覚だ。

 ふと、ユキノが口を開く。

「……先生、今回の詩にも“破れた写真”という言葉がありましたよね。それ、実際に事件のニュースで見たことありませんか? 被害者の遺留品が破れた写真だったとか……」

「そうだ。確かあった。あまり大きく報じられなかったけど、ネットの書き込みでちらっと見た気がする。まさか、あの事件と関係があるのか……?」

 犯行の手口こそバラバラではあるものの、被害者の周囲に意味不明なメッセージや物品が残されていた未解決事件。それらの中でどこか共通点を指摘する声が一部あったが、警察は公に詳細を明らかにしていない。だが、詩に登場する単語がその事件に関連しているとすれば、単なる偶然と片付けるにはあまりにできすぎている。

 アキラの脳裏に、いつか聞いたシンイチの言葉が浮かぶ。――捜査には事実を積み上げる地道さが必要だが、直感を侮ってはいけない。思わぬところで、感覚が真実を捉えることがある。――過去にその言葉を聞いたときは半信半疑だったが、今まさにその“感覚”の部分が警鐘を鳴らしているように思えた。

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